夏暑く冬寒い盆地特有の気候で、特に中心部はうなぎの寝床と呼ばれる細長い敷地や狭小地の多い京都。 この町で人々が過ごしてきた町家のような日本家屋には、快適に暮らすための知恵が詰まっています。 最大のポイントとも言える風通しをはじめ、現代の住宅にも生かせるアイデアを、京都大学大学院の髙田光雄教授に聞きました。
家の内と外を緩やかにつなげる
環境調整空間という考え方
京都中心部の住宅は、隣家と壁が隣接しているので、出入り口や窓を設けるのは、道路に面した家の「表」とその反対側の「裏」が主。その内側に、昔ながらの土間や縁側のように空気層のある空間を設けると、夏の暑い時期や冬の寒い時期に、室内外の気温や湿度の差を緩衝する場としての役割を果たしてくれます。深い庇がつくる日陰なども含め、このようなスペースは現在、環境調整空間と呼ばれています。
断熱性能を持った引き戸で仕切られた内側の部屋にだけエアコンをかければ、夏も冬も省エネに。冬の寒いときには日差しで縁側がサンルームのようになり、エアコンの効いた内側の部屋より、心地良い暖かさを感じることもあります。この環境調整空間は、建具の開け閉めで自由にスペースを調整することができます。夏の夕暮れ、窓や引き戸を開ければ、家じゅうに空気が流れます。ホームパーティーをするときに部屋が狭ければ、建具を開けたり取り払って、つなげて使うこともできます。
また京都では、入り口の土間など道路に近いスペースは、地域の人との交流の場としても使われてきました。例えば祭のときには土間にしつらえを施し、外部に開放する。外と内の中間領域である環境調整空間は、こうしたコミュニケーション空間としての役割も担っています。
教えてくれたのは
京都大学大学院 工学研究科 建築学専攻
髙田光雄 教授
京都市生まれ、京都大学工学部建築学科卒業。博士 (工学)、一級建築士。都市住宅学会会長、京都府建築審査会会長、京都市建築審査会会長、京都市住宅審議会会長、平成の京町家コンソーシアム会長などを務める。地域の歴史や文化を生かした住まい・町づくりの実践的研究、集合住宅団地の再生・開発などに取り組む。